2011-08-12

マルドゥック・スクランブル (冲方 丁) を読む

「マルドゥック・スクランブル (全 3 巻)」。SF マインドを満載した日本 SF 作品の傑作です。作者は冲方 丁うぶかた とう

舞台は近未来アメリカ。主人公は少女娼婦バロット。彼女はオクトーバー社のギャンブラーにしてカジノのオーナー、シェルに選ばれ新しい身分証等を発行されて不自由ない生活を送っています。しかし、ある日、そのシェル自身によって殺されかけます。

シェルを張っていた事件屋のドクター・イースターとウフコックによって、バロットは救出。生死の境をさまよいますが、禁じられた技術を適用されて復活します。その「生命の保護などに限って禁じられた科学技術の使用を認める」法津こそが「マルドゥック・スクランブル-09 法」です。

生きのびたバロットが持ったのは 2 つの疑問。「何故、殺されたのか?」「何故、私なのか?」。その裏にオクトーバー社の暗部が潜んでいたことから、バロットは生命を狙われる羽目に。同じく「マルドゥック・スクランブル-09 法」に関連する事件屋ドクター・イースターとウフコックを味方に付け、証人保護プログラムを受けつつ、オクトーバー社の喉元に噛みつこうとするバロット一行。

しかし、オクトーバー社は「マルドゥック・スクランブル-09 法」と対をなす様に生まれた、「禁じられた技術」を所有する唯一の会社なのでした。オクトーバー社の切り札はボイルド。元軍人にして、軍人としての限界を延ばすための技術適用を「マルドゥック・スクランブル-09 法」成立前に受けた被験体です。

バロットとは違う超技術を持った殺し屋が追って来る中、バロットらは事件の鍵がシェルの経営するカジノの中にあることをつきとめ、カジノへと突入します。

前半は SF マインド溢れる技術・技術・技術。そして戦闘。逃走劇。中盤はカジノでの大勝負。そして最後にボイルドとの決戦。ストーリーの流れは澱みなく、台詞は生き生きとして、サスペンスとしての魅力も十分な作品です。

一つ付け加えるならば「カジノ」について。SF 作品でカジノ? と首を傾げてしまいますが、これが面白い!! これは騙されたと思って読んで頂くしかないです。勝負に出てくるのは、コミュニティカード・ポーカー (日本で一般に言うポーカーはクローズド・ポーカー)、ルーレット、そしてブラックジャック。電子ハックで監視カメラの穴を作ったり、イカサマ師を逆手取ったり (ポーカー)、5 組のカード・デッキを使ったブラックジャックでカウンティングをやったり...(普通、覚えられません) SF ならではのイカサマ (?) が炸裂。しかし、カジノ側もさるもの。ブラックジャックで交替して登場したディーラーは、ハウス・マスターであり、カジノ最強のディラー・アシュレイ。圧倒的なカード捌きと心理把握、そして小さなイカサマ。アシュレイによってバロットとドクター・イースターは「連続引き分け」という泥沼に引きずり込まれます。カウンティングという必勝法も意味をなさない最後の強敵。ドクター・イースターは自らバースト(負け)して流れを変えようとしますが、それもディーラーの掌の上。バーストしてもアシュレイとバロットは引き分けます。ゾクッとするのは、バロットがバースト覚悟で 4 枚の A を連続で引いて 21 《ブラックジャック》を成立させるシーン。勝負ありかと思うも、ディーラーの手は 21 《ブラックジャック》。またも引き分け。強すぎです。そんな二人のクライマックスは 3 巻の 200-202 ページ。アシュレイの言葉は

俺は今、勇気を見た。謙虚を見た。俺の目の前で誰かが完全に勝つのを初めて見た。

たまりません。

その他のマルドゥック・スクランブル

私は「マルドゥック・スクランブル」を図書館で借りました。しかし、現在、Amazon で「マルドゥック・スクランブル」は入手不可能。代わりに「完全版」が発売されています。その他にもマンガ化や映画化が進行中。少しご紹介しましょう。

映画版

三部作による映画化が進行中。第一部は 2010 年 11 月公開。既に BD/DVD 版が発売中。第二部は 2011 年秋公開。第三部は 2012 年公開予定。

小説 — 改訂新版

映画化に併せて全面改稿したハードカバー版です。全一巻。

小説 — 完全版

改訂新版とは別に手を入れた文庫版。全 3 巻。

改訂新版と完全版の違いは、こちらのブログが詳しいです。

マンガ版

「別冊少年マガジン」(月刊) にて連載中。作画は大今良時。

2009 年 10 月 (創刊 2 号) からの古株。同誌では「進撃の巨人」がヒット連載中。ぼくは「進撃の巨人」を読もうとしてマンガ版と出会い、その後原作に手を出しました。

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